LIFESTYLE「エシカルライフを考える」第1話
気づくこと、行動することで、誰もが心地よい毎日へ
February 14, 2023

人の暮らしや地球環境に配慮した考え方として注目されている「エシカル」。しかし、「エシカルのことをよく理解していない」「どう取り組めばいいかわからない」という方もいるのではないでしょうか。
連載企画「エシカルライフを考える」では、エシカルな事例の紹介や、そこに関わる人々の想いに迫ることで、日常生活の中でより良い未来を考えるためのきっかけをお届けします。今回はエシカルディレクターとして活躍する早坂奈緒さんに、エシカルの意味や取り組み方について伺いました。

早坂奈緒Hayasaka Nao
エシカルディレクター。エシカル商品を取り扱う「エシカルコンビニ」の運営に携わりながら、エシカル関連の展示やイベントのディレクター・キュレーターとしても活躍中。

他者や社会に気を配ることが、エシカルの第一歩。。

東京都南青山に店舗を構えるエシカルコンビニ。アパレルや化粧品、洗剤など、多種多様なエシカル商品が並ぶ店内で、早坂さんに話を聞くことができました。

「エシカルは日本語に訳すと『倫理的・道徳的』という意味で、『自分だけ良ければいい』という思考ではなく、人や社会、地球環境など世の中のさまざまなものに配慮した考え方や行動を大切にしようという概念になります」

そして、「人が生きるうえで普通に取り組んでいることが、実はエシカルな行動だったりするんです」と続けます。

「言葉だけ聞くと『なんだか難しそうだ』と捉えてしまいがちですが、実は無意識のうちに取り組んでいる方は多いのではないでしょうか。たとえば、ゴミの分別だって立派なエシカルなことです。日常生活の中で、そうした行動をエシカルなこととして自覚し、継続することで、誰もが環境に配慮した取り組みができると思っています。また、普段使っている生活用品が、『もしかしたら川や海を汚す要因になっているかもしれない』と、一度立ち止まって想像を巡らせることも大切だと思っています」

「私にとってエシカルは、空気を吸うように、生きていくうえで当たり前のこと」という早坂さんですが、昔からエシカルを意識して生活していたわけではなかったそうです。エシカルに興味を持つようになったきっかけは、大きく3つあったと教えてくれました。

「1つ目は、私の実家が食品会社を経営していて、地産品を使った無添加のお惣菜を販売していたこと。からだにいいもので育ってきたから、エシカルという考えも自然に受け入れられたのだと思います。2つ目は、私の子どもが化学繊維の衣料品を着ると痒みが出てしまい、自然素材のものしか身につけられなかったこと。かつてアパレル関係の企業に勤めていたこともあったのですが、この瞬間まで素材について気を配ったことはありませんでした。子どもの体に優しい服を探し、素材のことを学び直す中で、少しずつエシカルについて関心を持つようになったんです。3つ目が、転職を期に、女性用の布ナプキンの仕事に携わるようになったこと。そのときに、オーガニックコットンの生産者のことや、使用後に出るゴミの問題について深く学んだんです」

気づきを得ることで、行動は変えられる。

こうした経験を通じて、エシカルなモノ・コトを発信するようになった早坂さん。エシカルコンビニも、「エシカルをもっと身近に捉えてほしい」という想いで運営していると言います。

「エシカルコンビニでは現在、世界中から約140のブランドをセレクトして販売しています。頭からつま先までエシカルな商品で生活ができたら、地球環境のためになりますし、さまざまな社会課題も解決にもつながると考えています。私たちは、『エシカルでありながら便利な商品が気軽に手に入る』ということを知ってほしいという理由で、お店の名前に『コンビニ』をつけることにしました」

また、エシカルコンビニでは、「生物や地球環境への配慮がなされているか」という視点で、取り扱う商品を選定していると教えてくれました。具体的には「Less Waste(資源への配慮)」「Animal Welfare(動物への配慮)」「Natural Materials(自然への配慮)」「Ocean Friendly(海への配慮)」「Creativity(クリエイティビティ)」「Experience(気づきの連鎖)」という6つの基準を設けているそうです。

キズや色褪せなどが原因で出荷前に廃棄されていたパッションフルーツを使用したアップサイクル化粧品「ボタニカノン」
環境にも人にも配慮した素材でつくられた「Kruhi ボタニカル石けんシリーズ」
持続可能な素材からつくられたアクセサリー

「最初の4項目はものづくりの背景や素材にまつわるもので、後の2つは私が個人的にとても重要だと感じている基準です。『Creativity(クリエイティビティ)』は、生産者の考えや姿勢を汲み取りたいという気持ちから項目に加えました。人や環境に配慮した新しいものを生み出すのは、素材の選定や製造工程でさまざまな工夫が必要になるため簡単なことではありません。だからこそ、その工夫から学べることはたくさんあるのではないか、と感じたんです。また『Experience(気づきの連鎖)』は、消費者になぜ今この商品が必要なのかという背景を知ってもらい、気づきを得てもらうことで、行動を変えてほしいという想いから設けています」

気づきの連鎖を生み出し、消費者の行動を変えていく。それこそがエシカルコンビニを通じて実現したいことだと、早坂さんは力を込めます。

無理なくできることから始めてみる。

身近なことから取り組むこと。気づきを得て行動を変えていくこと。一人ひとりができる範囲でエシカルと向き合うだけでも、社会はもっと良くなるはずだと早坂さんは話します。

「たとえば、ゴミの廃棄や汚染水の排出によって、生態系に大きな影響が出ています。先進国の豊かな生活を支えるために、発展途上国の人々が苦労を強いられているケースもあります。こうした社会課題を解決するためには、事業者は素材や製造工程を見直すことが求められますし、生活者の行動変容も必要です。とはいえ、いきなり生活用品や行動をすべて変えることは難しいと思います。だから、今の生活とのバランスを取りながら、できることを一つずつ無理なく始めていく。その小さな取り組みも積み重なれば、社会は大きく変わっていくはずだと考えています」

早坂さんは今後、エシカルディレクターとして活動を続けながら、地方の活性化にも貢献していきたいと希望を口にします。

「地方には、元気な人や面白いアイデア、優れた素材がたくさん存在しており、可能性は無限に広がっていると思っています。ただ、そこから具体的な何かを生み出すためにはきっかけが必要です。だからこそ、地方のいろんな人やアイデアをつなぐパイプ役となって、地方の活性化に貢献したいと考えています。また、地方にはエシカルな事例がたくさんあるはずなので、それらに触れながら自分自身をアップデートしていきたいですね」

人や社会、地球環境に気を配るエシカルという考え方。その取り組み方も、答えも、人の数だけ存在します。「エシカルライフを考える」は、今後、早坂さんが注目するエシカルな事例の取材を通じて、より良い暮らし方を始めるためのヒントを発信していく予定です。どうぞお楽しみに。