LIFESTYLE「捨てられるはずだった本」が誰かの笑顔になる。
バリューブックスがつくる、古本の好循環と新しい体験
December 12, 2023

「使わなくなったものをできるだけ有効活用したい」「荷物を整理したいけど捨てるのは抵抗がある」と悩んだ経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。未来の暮らしを豊かにするためには、リユースやリサイクルなどを通じて、限られた資源を再利用することが重要です。株式会社バリューブックスは、古本売買の事業をベースに、買い取りができなかった本の再利用や、買取金額を寄付する仕組みづくりを通じて、社会に心地のいい循環を生み出しています。同社の取締役副社長を務める中村和義さんに、古本を活用した新しい価値づくりや体験について伺いました。

中村和義Nakamura Kazuyoshi
株式会社バリューブックス取締役副社長。異業種から2014年に同社に転職し、翌年から役員を務める。現在は新規プロジェクトの立ち上げや運用、他社とのコラボレーションなど、新しい企画を次々と実践中。

世界中の人々が自由に読み、学び、楽しむ環境を整える。

バリューブックスは2007年の創業以来、インターネットを活用した古本の売買をメイン事業として成長してきました。バリューブックスのサービスサイトでは、古本の買取依頼や購入が気軽に行え、日々多くの人々が利用しています。

「本社がある長野県上田市には複数の倉庫を構えており、2023年現在、約150万冊もの書籍を所有しています。全国各地のサービス利用者からは、1日平均で約3万冊の本が送られてきており、この倉庫で買い取り査定や管理を行っています」と中村さんは教えてくれました。しかし送られてきた本の約半数は、需要と供給のバランスが崩れていることから古本市場で価値がつかず、買い取りができないと言います。

「買い取りができなかった本は、一般的には古紙リサイクルに回り、新しい資源へと生まれ変わります。しかし、値段がつかなかった本でも状態が良好であったり、内容が素晴らしかったりというケースが多く、非常にもったいないと感じていました。私たちのビジネスの根幹には「世界中の人々が自由に読み、学び、楽しむ環境を整える」というミッションがあるんです。そのためには必要としている人に必要な本が届くような仕組みづくりが不可欠だと考えました」

こうした想いから生まれたプロジェクトの一つが、「捨てたくない本」プロジェクト。買い取れなかった古本を小学校や保育園、病院などに寄付する「ブックギフト」や、それらの本だけを集めて格安で販売するアウトレット店舗「バリューブックスラボ」など、すでにさまざまな取り組みが形になっています。「捨てられるはずだった本が必要な場所に届くこと、そして手にとった人たちに喜んでいただけたことがとても嬉しかったですね」と話す中村さんの表情には笑顔が浮かびます。

本との素敵な出会いを生み出すために。

たくさんの古本を乗せて各地を巡る移動式書店「ブックバス」も好評です。ブックギフトプロジェクトの一環として、保育園や小学校を訪れることもあり、子どもたちは思い思いに本を選ぶのだと中村さんは言います。

「普段あまり本を読まない人にとって、自分が興味を持てる本を選ぶことは簡単ではないと思います。しかしブックバスで本を届けに行くと、まずバスそのものに興味を持ってくれますし、その結果『自分で本を選んでみよう』と意欲的になる人をたくさん見てきました。ブックバスは、本を好きになってもらう入り口として機能していると感じています」

さらに中村さんは、「本との偶然の出会いをもっと増やしたいんです」と続けます。

「最近のオンラインショップはレコメンド機能がスタンダードになっているため、自分が関心のある商品とは出会いやすくなっています。その一方で、それ以外のものと出会う機会が損なわれてしまっているように感じるんです。また、実店舗も減少傾向にあるため、このままだと偶然の出会いがどんどん少なくなってしまう気がしています」

そんな懸念からサービスサイトに導入したのが「選書AI」。文章を打ち込むことで、AIが自動で本を薦めてくれるというサービスです。「オンラインであっても偶然の出会いが生まれたらいいな、という想いでシステムを組み込みました。まだまだ精度が良くないので開発を進めています。これからも、利用者にとって新しい体験になるものを積極的に企画していきたいですね」と中村さんはさらなるビジョンを教えてくれました。

サービスサイトのトップページ。「選書AI」もここから使用可能。

古本がどう役立っているかが見える。
だから、気持ちよく整理できる。

本との出会いを生み出すリアルな場所として、また、所有する150万冊もの古本のあり方を表現する場として誕生したのが、上田市にあるブックカフェ「NABO」です。「大量の書籍の中からピックアップして店内に並べるので、従来の古本屋のイメージとは一線を画する、いわば『古本のセレクトショップ』です。また、バリューブックスはオンラインでの売買がメインで、地域とのつながりが薄かったこともあって、実店舗の運営に踏み切ったという背景もあります。地域の中で目に見える形で『素敵』だと感じてもらえる存在になることができれば、利用者はもちろん、働く人にとってもプラスになると思っています」と中村さんは話します。

これらの取り組みがきっかけとなり、現在はさまざまな企業とのコラボレーションが生まれています。

「たとえば、無印良品を運営する良品計画とは、同社が展開する『MUJI BOOKS』の中での取り組みとして、廃棄されるはずだった本を次につなげていくために、『古紙になるはずだった本』として販売されています。また、一部の店舗にて不要になった本やCDを回収して寄付につなげる活動にも取り組んできました。さらに、バリューブックス独自のプロダクトである『本だったノート』の一つとして、『本とダンボールだったノート』を協力してつくっています。この商品は、無印良品が輸送用に使用していたダンボールと、捨てられるはずだった古本やインクを活用して誕生しました」

古本を活用して生まれた「○○だったノート」シリーズ
ところどころにうっすらと活字が残っているのが特徴

その他にも、近隣のブックカフェに並べる書籍を選定するなど、古本の卸売や空間のディレクション業務にも力を入れていると言います。

「書店を経営されている方や、雑貨屋、カフェ、ホテルなど、いろんな方がいろんな空間に古本を取り入れてもらえたなら、古本のより良い循環が生まれると思っています」

古本を手放したい人に向けても、ただ買い取るだけに留まらない、さまざまなサービスを提供しています。たとえば「チャリボン」というサービスを活用すれば、買取金額がそのまま大学やNPOなどに寄付されます。現在は約200団体が支援先として登録されており、寄付総額は7億円を突破しました。

「これまでの古本業界の仕組みでは、買い取られた本がその後どうなっていくのか想像できず、それが手放すことへの心理的なハードルになっていたのではないでしょうか。しかし『チャリボン』を使っていただくと、古本が寄付金という形に生まれ変わって、誰かの役に立っていることを知ることができます。本の持ち主の収入にはならないにも関わらず、多くの方たちに利用していただいています」

読書という素敵な体験を進化させていく。

バリューブックスに参画する以前は、あまり本に興味はなかったと話す中村さん。改めてご自身にとって本の魅力とは何か、質問をしてみました。

「バリューブックスに入社して、日常的に本に触れるようになってから、本を読んで、学んで、実践することは、自分自身の成長に大きくつながると肌で感じています。本とは、著者が自分自身の人生を反映させて生まれるもの。それをリーズナブルな価格で体験できるというのは、とてもありがたいことです。古本は、その素晴らしい体験をさらに低価格で得られる点が魅力だと思いますので、これからもいい本との出会いの場を生み出していきたいですね」

最後に、今後チャレンジしてみたいことを聞いてみました。

「読者の方と直接つながり、新しい体験を届けていくことです。そのためには、他にはない付加価値や新しい体験を提供する必要があると思っています。その一環としてチャレンジしたのが、新刊を発表した著者とのコラボレーション販売企画です。著者の方にバリューブックスでの購入を促していただく代わりに、その書籍の書店利益を著者に還元するという取り組みを実施しました。そのほかにも、本の内容にマッチする特典をつけて販売するといったプロジェクトも。こうしたさまざまな企画を通じて、本という枠組みを超えた新しい体験を提供していきたいと思っています。本はあらゆるジャンルを網羅しているからこそ、どんな人とでもつながっていける。そう信じて、この先もたくさんの人に本との出会いを届けていきたいですね」

手放した本の行き着く先が見える。著者や次の読み手など、本の先にいる人たちの姿が思い浮かぶ。それこそがバリューブックスがつくってきた、人と本との新しい関わり方ではないかと感じました。あなたの住まいに眠っている本が、まだ見ぬ素敵な出会いをつくっていくのかもしれません。

野村不動産グループカスタマークラブのサステナビリティ活動 『本で寄付するチャリボン』 募集終了しました。