LIFESTYLE地域と伴走して、暮らしを楽しく
進化させる「Be ACTO日吉」
March 12, 2024

「プラウドシティ日吉」は、2018年に着工し、2023年3月に完成しました。総開発面積40,000㎡以上の敷地には、1318戸の集合住宅、商業施設、サービス付き高齢者向け住宅があります。また2020年4月には、隣接地に横浜市立箕輪小学校が開校。商・住・学一体の大規模複合開発プロジェクトです。このプロジェクトを通して、街の価値を上げていくために野村不動産が注力しているのがエリアマネジメント。2018年10月に「BE UNITED構想」※1を発表し、その構想を具体化する取り組みとして「Be ACTO」を新しい部署をつくり推進。工事期間中から地域のみなさまと伴走し、協力しあって試行錯誤しながら活動を継続しています。本コラムでは、この5年間のトピックや、目指すコミュニティの在り方などについて、伊藤学さんにお話しいただきました。

※1. ハードとしての街づくりに加え、個人や団体、学校や企業など多種多様なプレイヤーによるソフトとしての連携基盤を有する街づくりを目指し、街への愛着や誇りが、やがてわが街をよりよく育んでいこうと考える「シビックプライド」の醸成へとつながっていく街づくりの考え方。

伊藤学 Ito Manabu
2018年の10月より、Be ACTOの第1号案件「日吉」のプロジェクトを担当。2020年のエリアマネジメント部を新設以降、現在はエリアマネジメント部における運営案件、企画、新規相談の提案など全般的に担当している。

エリアマネジメント導入のきっかけ。

エリアマネジメントとは、国土交通省によると“地域における良好な環境や、地域の価値を維持・向上させるための住民・事業主・地権者等による主体的な取組”と定義されています。それでは「プラウドシティ日吉」で、なぜエリアマネジメントに取り組むことになったのでしょうか。導入することになったきっかけを伊藤さんに聞いてみました。

「恐らく2016年に『ふなばし森のシティ』が『エコカルティエ認証』を取得したことがきっかけだと思います。聞き慣れない認証かと思いますが、これはフランス政府が推進する持続可能なまちづくりにかかわる模範的な事業に与えられる認証制度で、当時フランス国外では世界で初めてステップ3を取得しています。当時の時代背景として、東日本大震災から約5年が経過し、災害時における人と人のつながりが改めて見直されたということもあったかもしれません。海外の制度ではありますが、街づくりをハード面からだけではなくソフト面からも評価している制度は珍しく、外部からの評価で街づくりにおいて新たな視点も生まれ、社内の機運も高まりました。

また、当時横浜市で日吉の大規模プロジェクトが進行していて、『ふなばし森のシティ』に続く、新たな街づくりを検討するためにグループ横断でプロジェクトのタスクフォースが組成され、取り組みを考え始めたと記憶しています」

2022年12月のステップ4取得にあたっての式典より。2023年10月実施。
完成して10年を経てコミュニティが育まれている「ふなばし森のシティ」。

この日吉のプロジェクトが、横浜市との開発協議を進めていく中で、新たに地区計画を定め、その要件のひとつにエリアマネジメントに取り組むことで容積率や高さ制限の緩和がされたことも理由です。2018年には地域共生型の街づくり「BE UNITED構想」を発表し、それを実現する取り組みとして、オープンコミュニティ「Be ACTO」が誕生しました。

開発と並行して行われたコミュニティづくり

「吉日楽校」2018夏〜2019冬。

一般的に街は建物が完成してから人が住み、暮らしがスタートします。「吉日楽校(きちじつがっこう)」は、開発期間中から地域との接点をつくる新しい挨拶のかたちとして取り組みました。工事区画の一部を暫定的に広場として地域に開放し、その場所を使って地場の食材を販売するマルシェや、焚き火、デイキャンプなどの体験会を開催。その後の「Be ACTO日吉」の活動にもつながっていく人間関係やコミュニティの基盤がつくられました。

いよいよ街びらき、「きちじつ△(さんかく)」。

「プラウドシティ日吉」は、2020年春に引き渡しを開始しましたが、コロナウィルスの大流行により交流すること自体が制限される生活が長く続きました。レジデンスII、レジデンスIIIとすべての引き渡しが終わったのは2022年9月のこと。その際に本格的にエリアマネジメント活動を進めていくにあたって、「Be ACTO日吉」への参画意識をつくろうと企画したものが、街びらきイベント「きちじつ△(さんかく)」です。

「日頃接している地域の方や施設を利用している方、住民の方が、それぞれ少しずつ参画することで、街が盛り上がっていくことを実感した3日間でした。マルシェや各種イベントなども大盛況で、住民だけではなく周辺地域からもたくさんの方々が広場に集まってくれました」

地域と企業をつなぐ実証実験。

そのほかの多種多様な取り組みの中で、伊藤さんが印象的なものとして挙げられたのが、ロボット配送の実証実験です。

「2021年頃からロボットが敷地内を時折走っています。住民以外がマンション内の敷地を使うためには管理会社や管理組合の承認が必須ですし、さまざまなハードルもあるのですが『プラウドシティ日吉』の管理会社や管理組合の方々がとても協力的だったことで実現に至りました。アプリを使って買物をすると、マンションの入口までロボットが買ったものを届けてくれるんですね。いまロボットに鍵を持たせて反応させることで、エントランスの出入りもできるところまで進んでいます」(2023年2月現在)

将来、エレベーターとの連携ができるようになれば住戸の玄関までロボットが届けてくれることに。未来の買物シーンが近付いています。

横浜の「みのわ」と長野の「みのわ」、名前でつながり生まれた縁。

地域とコミュニティが共に成長してきたことが伝わるエピソードのひとつに、横浜市港北区箕輪町、長野県上伊那郡箕輪町、同じ町名のつながりから交流が生まれたご縁があります。

2023年10月に開催した「箕輪商工フェア」は、「プラウドシティ日吉」の中央広場と箕輪小学校アリーナ(体育館)を会場として催された協業イベントです。コロナ前から個人間同士での交流はあったものの、前年の街びらきイベント「きちじつ△(さんかく)」をきっかけに、横浜と長野、プラウドシティ日吉のオール「箕輪町」でイベントは行われました。

「約30組が出店するフリーマーケットのほか、新米やりんごなどの特産品を販売する長野県箕輪町ブースが設置されました。当日はあいにくの雨で一部の催しは中止になってはしまいましたが、長野県からも職員の方々に来ていただき、ステージパフォーマンスなどを楽しみながらのよい交流の機会になったと思います」

長野県上伊那郡箕輪町の箕輪南小学校の総合学習ではお米の収穫体験があり、収穫したお米は五平餅にして、横浜市港北区箕輪町の箕輪小学校5年生が販売。小学生の間にも“みのわつながり”なアクションがあるそう。長野県上伊那郡箕輪町は豊かな観光資源があるのでぜひ足を運んでほしいし、横浜市港北区箕輪町は柔軟な視点でコミュニティを活発にしたいので、お互いにとって気持ちのいい関係を末長く築きたいと伊藤さんは考えています。

「2024年も10月に実施が決まっていますが、今度は天気が良い中で開催できることを願っています」

ここでは、企業、行政、住民は、ひとつのチーム。

エリアマネジメントを進める中で大変だったことはありますか?という質問にも率直に答えてくれた伊藤さん。

「プラウドシティ日吉は段階的に工事が進んでいき、途中で工事中に通学路を塞ぐことになってしまい、車道を通らないと学校に行けなくなる時期がありました。危険なままにしておくわけにはいかないので、マンションのフェンスの一部を取り払って植栽を移設し、仮設の門を建てるためにマンション管理組合に承認をもらったり、行政に補助金の枠組みをつくってもらったりして、地域の方々全員で協力して解決しました」

「また、横浜市では0歳児の子どもを持つ保護者が、月1回無料で交流会を実施しています。大規模なマンションができてファミリー層が増えたことで周囲の会場はパンクしてしまい参加できなくなってしまうという、思いもよらぬクレームが入ったこともあります。そのときはマンションの管理組合に相談した上で、集会室を開放してもらい、同様のサービスを実施してもらうなど、開発に伴う負のインパクトをソフト面で解決に導いています」

エリアマネジメントプランの目標の1つに掲げていた「課題解決や魅力向上に向けた創造的取組」を体現した事例といえそうです。

街をつくるとなれば想定外の問題が起きるのも当然ありえること。だからこそ民間企業・行政・住民の三位一体の街づくりやエリアマネジメントには意義があると伊藤さんは指摘します。

仕組みとパートナーが、エリアマネジメントの要。

一方、エリアマネジメントは想いだけでは続きません。持続し、成長し続けるコミュニティには仕組みづくりとパートナーの存在は欠かせません。「Be ACTO日吉」においては、「一般社団法人ACTO日吉」を設立し、経営的な視点で地域活動のサポートを行なっています。もちろんパートナーの存在も重要です。

「地域に持続的に関わる事業者の内、エリアマネジメント活動の趣旨に共感してくださる方に協力してもらい、コアパートナーとしてテナントに入居していただいています。例えば子育て、健康、食、緑をテーマにした事業者の方がいますので、普段の業務からイベント開催まで、いろいろなことを一緒に取り組んでいます」

街づくりに関わりたい人、本気で地元をよくしたいと思う人を見つけられるか、そんな方々と手を組めるかは、エリアマネジメントの質を左右する非常に大切なポイントだと伊藤さんは強調しました。

エリアマネジメントの可能性とは、面白さとは。

エリアマネジメントの取り組みは、共創の場において可能性があると感じている伊藤さん。

「新しい製品やサービスを試すことのできる住宅のフィールドは少ないですが、サービスを提供したい企業と、 新しい体験を得られる住民の間の中間支援組織としてサポートに入ることによって、実現しやすくなると感じます。わたしたちはハードにおける街づくりはもちろんのこと、今後はエリアマネジメントの取り組みを通じて、つくったハードにおいて、そこから生まれる新しい暮らしに寄り添い、暮らしの中からビジネスのヒントをつかんでいくことができるのではと考えています。ここで得られた知見が、ほかの物件やエリアに展開できたら意義があると思います」

「わたしたちの取り組みは、場所と場面を提供するだけではなくて、さまざまな立場の人の話に耳を傾けることかと思っています。なるべくみんなが納得して満足できるように、困り事を解決する。お節介役みたいなところもありますが、ちょっと先の未来を見ながら街の価値を上げることに貢献できたら、こんなに嬉しいことはありません」。

「Be ACTO日吉」は、人とコミュニティが共に成長しつづけるための持続可能性を大切にした取り組みが評価され、2023年にグッドデザイン賞を受賞しました。審査では「魅力的な活動であることは、会員数の多さに表れており、今後のさらなる進化が楽しみである」というコメントをいただいています。

数年後、数十年後、「Be ACTO日吉」のまわりには、どんな景色が広がっているでしょうか。