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KURASUMA

ライフスタイルコラム

新しい価値観や人、自分に出会える。そこに、二拠点生活の魅力がある

#働き方 #二拠点生活 #コミュニティ #Well-being
 のイメージ
 

ライフスタイルの多様化やリモートワークの普及によって注目されるようになった「二拠点生活」。野村のクラスマではこれまでも2名の二拠点生活者を取材し、その魅力や実態に迫ってきました。今回お話を伺ったのは、香川県直島と東京都を行き来する生活を送っているクリエイティブディレクター/ストラテジストの中島琢郎さん。二拠点生活を始めたきっかけや、そこから得られた気づきや価値について語っていただきました。

中島琢郎

中島琢郎

東京生まれ東京育ち。外資系広告会社の営業としてキャリアをスタートし、世界最大級の広告賞「カンヌライオンズ」への入賞をきっかけにクリエイティブ職に転向。その後デジタルエージェンシーにてR&Dや新規事業開発を担当し、2020年にはエクスペリエンスデザインファーム「tacto」を共同設立。現在はAIを活用した発想法の研究・事業開発に取り組んでいる。

地域の人とのご縁を通じて出会った住まい。

岡山県宇野市や香川県高松市からフェリーでアクセスできる瀬戸内海の島、直島。周囲約16km、人口約3,000人というこの小さな島は「アートの島」として知られ、国内外から多くの観光客が訪れます。中島さんは2024年から、この島と東京での二拠点生活を始めました。


直島の玄関口である宮浦港で人々を出迎える、芸術家・草間彌生さんの作品「赤かぼちゃ」/草間彌生「赤かぼちゃ」2006年 直島・宮浦港緑地〈画像転載不可〉

「私自身は生まれも育ちも東京なので、地方に移り住むというビジョンはまったく持っていませんでした。ただ、妻が四国の出身で宇野でも生活経験があったこと、『自然環境と国際色が豊かな地域で子どもを育てたい』という想いがあったことから、直島に拠点を構えるというプランが少しずつ具体化していったんです。私も直島は何度か訪れたことがあり、知り合いが暮らしていることも決め手になりました」

直島の住まいは「地域の方が紹介してくれたんです」と話す中島さん。「直島に住もうという話が盛り上がったものの、インターネットで調べるだけではなかなかいい住まいに出会うことはできません。そこでまず妻が直島に通い始め、お祭りに参加したり、いろんな人たちと交流を重ねたりして、地域のコミュニティに溶け込んでいきました。その中で知り合った方から、この住まいを紹介していただいたんです」

こうして手に入れた直島の住まい。リノベーションは最低限にして昔ながらの家屋の雰囲気を残しながら、「室内からの眺めにはこだわりました」と言います。



「もともとは塀があったり磨りガラスが使われていたりして室内から外の景色が見えなかったんですが、それがとてももったいないと感じて手を加えました。それによってキッチンの窓から通称『おにぎり島』と呼ばれている大槌島や瀬戸大橋などの瀬戸内の風景が見えるようになりました。時間帯や日によって表情が変わるので、ただ見ているだけでもすごく癒されるんです」





2階はゲスト用の寝室や中島さんの作業部屋があり、作業部屋からも「おにぎり島」を見ることができます。
 

 

今いる環境に順応するために行動する。

生まれも育ちも東京という中島さんですが、東京以外の地域で生活することに「抵抗はありませんでしたね」と言います。

「もともと飽きっぽい性格で、仕事でもプライベートでも3年くらいの周期で『環境を変えたい』という気持ちが湧いてくるんです。なので都内で生活していた頃も頻繁に引越しをしていました。住む場所は物件重視で選んでいたんですが、同じ東京都内でも地域ごとに表情が異なっているのが面白かったですね。それにこれまで30カ国以上を旅してきて、新しい環境への適応力は高いと思っています。だから直島に住むことも『むしろ楽しもう』という気持ちが勝っていました」



新しい環境になじむために、中島さんが心掛けていることはあるのでしょうか。

「ビジネス面では『完全な別軸には行かず横展開すること』が大切だと思っています。いきなり別の仕事を始めようとしても、自分がこれまで提供してきた価値を届けることは困難です。私のキャリアは営業からクリエイティブ、新規事業開発にAI研究と、まったく異なる領域に移っているように見えるかもしれませんが、業務全体を見通す営業職に就いていたからこそクリエイティブのこともわかる、というように地続きになっています。その一方で生活の面では『郷に入れば郷に従え』の精神で、今いる環境に順応するために行動することは意識していますね」

「移動時間」という余白が新しい縁を生む。

現在は直島をメインに、東京には月に1~2週間ほど滞在する生活だという中島さん。二拠点生活を始めて、暮らし方や心境にどのような変化があったのでしょうか。

「一番大きな変化は、東京育ちでありながら東京が少し苦手に感じるようになったことでしょうか。地方から上京された方は『東京はごちゃごちゃしていて忙しない』という印象を持つことがあると思うのですが、初めてその感覚がわかりました。だけど、体験やコミュニケーションをつくる仕事をしている自分にとって、他者が抱く気持ちに共感できるようになったのはプラスだと考えています。またこの感覚は『ストレス』という言葉に言い換えられると思っているのですが、東京にいる期間はこのストレスを自分の原動力に変えて、『とにかくたくさんの人に会って、目の前の仕事を淡々と処理しよう』と考えて行動するようになりましたね」

その一方で「東京はコンテンツや文化が充実していて、一流と呼ばれる人たちが集まっているということも、改めて実感しました」と、東京の魅力を再発見できたとも言います。

直島から東京へは片道約5時間かかるそうですが、こうした生活にも徐々に慣れ始めてきたという中島さん。「新幹線での移動中は意外と仕事が捗りますし、本を読んで過ごすこともあるので、時間は有効活用できていると思っています」と移動中の過ごし方を教えてくれました。


直島と宇野を結ぶフェリーから見える瀬戸内海

さらに二拠点生活を始めてから、直島-東京区間内での仕事の相談や用事が増えたという中島さん。「『直島で生活を始めたんです』という話をすると『通り道なのでぜひ立ち寄ってください』と誘ってくださるお客さまがいらっしゃったり、区間内で開催されているイベントに顔を出す機会が増えたりと、前向きな変化がたくさんあります。これは偶然や運もあると思いますが、一般的に『非効率』だと捉えられがちな移動時間があるからこそ自分の中に余白が生まれて、これまで見逃してしまっていた情報が拾いやすくなったんだと感じています」

島暮らしとAIの相性は抜群。

忙しない東京での生活とは一転して、直島での生活は「とてもゆったりしていますね」と話す中島さん。「まだ子どもが小さいのも理由の一つですが、早寝早起きが当たり前になりました。朝早く起きてなんでもない船着場を一人で散歩しているだけでも、まるで瞑想をしているかのような、とても贅沢な時間に思えます。それに時間の流れがゆっくりに感じられるので、じっくりと物事を考える仕事は直島にいるときのほうが捗る気がしますね」


宮浦港近くにある屋外作品「直島パヴィリオン」/直島パヴィリオン 所有者:直島町 設計:藤本壮介建築設計事務所


本村地区の町並み。空き家を活用したアートをはじめ、さまざまな作品が点在しています


中島さんがお気に入りという「直島コーヒー」。大開口の窓から瀬戸内海の美しい風景を楽しむことができます

また、AIの活用方法について研究している中島さんは、「島暮らしとAIは相性がいいんです」と実体験を話してくれました。

「生成AIの音声会話モードを活用して、散歩しながらAIと話していると、自然とアイデアがまとまったり、リサーチするテーマが固まったりするんです。AIという博識な相手と好きなタイミングで気ままに話せるのは、ゆったりとした島暮らしだからこそだと感じます」

そして中島さんは、今後AIやロボットの普及によって「二拠点生活のハードルが下がるのでは」と予測します。

「東京から離れることにより、仕事や組織、仲間との距離まで離れるという不安を覚える人もいると思いますが、AIというコミュニケーション相手がいることで分断されている感覚が薄れていくように思いますし、最新の情報もどんどん入手することができます。また、10年後にはロボットも普及が進むと考えられ、たとえば農作業を手伝ってもらうなど、地方ならではの暮らしの楽しみ方も増える気がします」

家族や地域とのつながりが深まっていく

家族との時間も「東京にいるときよりも家族と過ごす時間を意識するようになりました」と話す中島さん。「時間の長さを正確に計測すれば今のほうが短くなっているかもしれませんが、不思議と長く一緒にいると感じます。たとえば週末には家族でフェリーに乗って高松や宇野のほうに出かけることもたくさんあります。保育園の送り迎えも、東京ではいろんな予定がある中でバタバタしてストレスに感じていたのが、直島ではのんびりと会話しながら送迎できていますね」

東京とは異なる地域とのつながりも、発見が多くて面白いと中島さんは教えてくれました。


写真手前のミモザは「ご近所さんからいただきました」と中島さん

「ご近所さんがつくり過ぎた食べ物を譲ってくれたり、家の設備に不具合があったときにすぐに駆けつけてくれたりと、『Give』の精神を持った人がたくさんいると感じました。ただ、この『Give』は日常の中に溶け込んでいるものなので、それに対してどこかで買ってきたものでお返しするのは少し違うように思い、我が家も料理や庭で育てた野菜をお裾分けするようになりました。交換経済が当たり前に行われている地域社会で暮らし始めたからこそ、常に他人のことを少し想いながら生活するようになりましたね」

情報を集めるよりも、まずは動いてみる。

いつも新しい環境に踏み出すことを楽しんできた中島さんに、改めて二拠点生活を始めるうえで必要な意識や行動について聞いてみました。

「現代社会は情報がとても多く、二拠点生活や移住に関する情報も調べればいくらでも入手することができます。こうした情報を見聞きしているうちに考えすぎてしまい、かえって行動しづらくなっている方もいるのではないでしょうか。それならば一度調べるのをやめて、その時間を使って気になっている地域を訪れてみるほうが有意義ではないかと思います。通っているうちに知り合いができたり、住んでいる人の視点が見えてきたりする中で、その地域や二拠点生活の魅力がより具体的になるかもしれません。また、子どもがいる家庭であれば、『子どもが楽しそうにしているか』『のびのびと過ごせているか』と子どもの視点で考えることもヒントになると思っています」

最後に、中島さんに今後やってみたいことを聞いてみました。

「子どもを今の環境で育てられるのはとても恵まれていると感じています。だから、釣りに行ったり、美術館に足を運んだり、海外から来られた人たちと交流したりと、この場所でしかできないことを一緒にたくさん体験したいですね」



最後に中島さんは「二拠点生活や移住を楽しむ人が周りに増えたら、地域にも面白いモノやコトが生まれると思っているので、自分の考え方や暮らし方を発信することが誰かのきっかけになれば嬉しいですね」と話してくれました。

情報収集に力を入れるよりも、まずは気になる地域に飛び込んでみる。その環境に適応するために、地域の人や文化に触れてみる。移動時間さえもプラスに変えて、AIを活用した実験的な働き方や暮らし方を楽しんでいる中島さんのスタイルは、二拠点生活を考えている人にとって一つのロールモデルになるのではないでしょうか。

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