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KURASUMA

ライフスタイルコラム

「学びを探求しよう」第4話 教養は生きる力の源泉。いくつになっても学び続ける。

#学ぶ #コミュニティ #Well-being
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人生100年時代、学びは10代、20代だけのものではありません。連載企画「学びを探求しよう」では、全国津々浦々で、興味深い学びにチャレンジしている学校や先生にお話を伺い、その取り組みや思想をご紹介しています。第4話は、公益財団法人兵庫県生きがい創造協会が、兵庫県の支援を受けて運営するシニアのための学びの場「兵庫県阪神シニアカレッジ」へ。1997年の開学以来、3600人以上もの卒業生を輩出しているカレッジは、何を目指し、日々どのような活動を行っているのでしょうか。今回は田辺眞人学長の授業がある日にお邪魔し、その講義を拝聴させてもらうとともに、学長に取材を行いました。

田辺眞人

田辺眞人

兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学文学部史学科を卒業。高校教師を経て、1986~1991年にかけてニュージーランド教育省、国立マッセイ大学に勤務。園田学園大学名誉教授。県立兵庫津ミュージアム名誉館長・兵庫県阪神シニアカレッジ学長・宝塚市大使・三田市文化財保護審議会委員・ニュージーランド学会顧問等を務める。

なぜ、いま学ぶのか。「阪神シニアカレッジ」が生まれた背景と現場

そもそもなぜ「阪神シニアカレッジ」は開校されたのでしょうか。きっかけは兵庫県が1967年に県政100周年を迎えるにあたり、今後の県の発展のためには生涯学習が重要であると提言したこと。その草分け的存在として1969年に「兵庫県いなみ野学園」が開設されました。

「わたしも関わっていた『兵庫県いなみ野学園』は、全国に先駆けて誕生した高齢者大学です。県はこれと同じ機能を阪神地域にもつくりたいと考え、まずは尼崎や西宮など、点在するかたちで『阪神シニアカレッジ』が開学しました。それらを統合し宝塚に現キャンパスが開校したのが2019年のこと。わたしは2021年から学長に就任しています」

取材時は、真夏日。午前中でもかなりの暑さでしたが、10時に始まる授業に出席するために、続々と学生のみなさんが通学してきました。入学資格のある年齢は56歳以上。といっても50代、60代はまだ勤められている方も多く、最も多いのは70代だそう。今年の最高齢は89歳の方が入学され、卒業時には93歳になられると言います。家で自由にのんびり過ごすことを選べるにも関わらず、この世代の方が積極的に学ぶ意味は何なのでしょうか?田辺学長に聞いてみました。



「社会的にも経済的にも力を積んできたみなさんに、第三の力である教養を磨いていただくためです。ソロモン大王は『知は生命の泉なり』と言いました。教養は生きる力の大きな源泉です。ちょうど昨日お会いしたイギリス人女性も『Knowledge is power』と言っていましたが、わたしは物事を知ることは根源的に生きる力を高めると思っています」
 
「さらに、脳を使うことは認知症予防にも効果があるんですね。アルツハイマー型認知症の原因とされる物質の一つ、アミロイドβ(ベータ)は、適度な運動によって血流が促されると、その蓄積が抑えられることがわかっています。同様に、“学ぶこと・知ること・考えること”といった知的な刺激も、アミロイドβの抑制に効果があると言われています。AIはとても便利ですが、頼りすぎると頭の働きが鈍ってしまう気もしませんか?だからわたしはいまでも辞書を引きながら、400字詰めの原稿用紙に自分の手で文字を書いているんです」

知的好奇心を満たすカリキュラムと、交流を深める26のクラブ活動

阪神シニアカレッジには、4年制学科として「国際理解学科」「健康学科」「園芸学科」が、2年制講座として「阪神ひと・まち創造講座」があり、2026年からは「文学・歴史講座」が新たに開講。週2回の授業には、各分野ともに第一線で活躍する有識者が講師陣に名前を連ね、驚くべき充実のプログラムが組まれています。



「世界の紛争やパンデミックを見るにつけ『国際理解学科』や『健康学科』の意義が痛感されますし、やすらぎやつながりを求めるとき『園芸学科』や『阪神ひと・まち創造講座』の役割が認識されると思います。豪華な講師陣は、事務局スタッフの努力の賜物。講師を務めてもらいたい方の講演会に足を運んでスカウトすることを積み重ねてきたことで、充実のネットワークを築いています。唯一の欠点は人気が高すぎて、特に『国際理解学科』は、毎年志願者の倍率が2倍を超えてしまうことですね。『文学・歴史講座』を新設することで、少し緩和できるかと思っているのですが、希望する方全員が入学できるわけではないので、抽選で入学できた方は積極的に学んでいただきたいです」



ちなみに田辺学長は歴史の専門家。取材日は国際理解学科の授業で、ニュージーランドの歴史と社会をテーマに90分の講義を行っていました。興味深いトピックの間に、ところどころボケが挟まれるのは関西らしさでしょうか。数分おきに笑い声が上がり、あっという間に時間が経っていきました。

「授業もモノを売るときと同じで、自分が良いと思うモノ、自分が面白いと思うコトであることが大事ですよね。わたしはちょっと情報を詰め込みすぎちゃうところがあるのだけれど、歴史については心の底から面白いと思っているので、それは伝わっていると思います。また、阪神シニアカレッジの講師を務める面白さは、まだ人生経験の浅い現役大学生とは異なり、学生がコンテクストを読めたり、理解が早かったり、想定外の反応があったりすること。わたし自身も刺激を受けています」



また、歴史教育は誤解されていると熱く語る田辺学長。

「歴史は過去の出来事を暗記することではなくて、モノゴトや社会の生い立ちを学ぶことなので、我々が将来を考えるときの重要な手掛かりなんです。ただ過ぎ去ったものではない。すべての物事に時間的な背景があり、いまこの瞬間に直面している問題の原因も過去にあります。歴史を紐解くことは、未来へつながる道を拓くことです」

カレッジライフを彩るクラブ活動も盛んです。現在は26のクラブが部員同士の交流を深めながら活動しており、取材時には太極拳を楽しむみなさんの姿が見られました。「同じ動きでも奥が深くて、やってもやっても完成しないの」などと言いながらも笑顔で嬉しそう。クラブ活動後も、みなさんでお茶を飲みながら団欒している姿が印象的でした。

ちなみに人気のクラブは、健康麻雀クラブ。「賭けない、吸わない、飲まない」を基本に、脳の活性化を目指す健康的な室内ゲームで、80名を超える部員が仲間と一緒に麻雀を楽しんでいます。ほかにも、テニス、まちあるき、歴史探訪、写真、山楽会など屋外で活動しているクラブも多く、「マジッククラブ同友会」など地域で発表会を催すクラブもあります。秋には、日頃の成果を披露する文化祭が開催されます。



学生や卒業生のみなさんがグループで行う地域活動、ボランティア活動も盛んで、その活動をサポートする地域活動支援センターが設置されているのも特徴です。現在は36グループが支援センターに登録し、さまざまな活動を行っています。

生涯学び続けて楽しく過ごすシニアを増やしたい

学長としてのやりがいや嬉しいことについて伺うと、卒業生からの評価が高く、卒業後、再度ほかの学科や講座へ再入学するリピーターや口コミで入学される方が多いことに加え、「いままで考えなかったことを考えるようになった」と言ってもらえることが大きな喜びだと答えられた田辺学長。また、学生の一人から500万円の寄付をいただいたエピソードも紹介してくださいました。

「美容室に住み込みで働き、離婚を経験しながら子育てと仕事を両立してきた77歳の女性が、宝塚市に500万円、本学に500万円を寄付してくださいました。ゆっくり勉強する余裕がなかったけれど、この年齢で学ぶことの面白さを実感されたそうで、土地と建物を売却した資金を、『誰かの役に立つように』と託してくれたのです。これはますます頑張らないといけない、と思いました」

実際、学長自身も「学長文学歴史サロン」と題した公開講座を企画して、オープンキャンパスで有料サロンを開催して、講演したり、対談したりと積極的に取り組んでいます。

「県の負担を減らすためにも、収入を増やす努力を続けたいし、生涯学び続けて楽しく過ごすシニアを増やすためのPRにも意欲を持っています」

学長ご自身も77歳。毎日飛び回っているエネルギーはどこから来るのかを尋ねたところ、身近な家族が生涯学習を実践してくれたことも大きいとのこと。

「30年前に妻が神戸大学に社会人入学して、発達科学を勉強しました。主婦であり、母であり、大学生でありということになって。ちょうどその頃、子どもが大学生だったので親子で卒業したんですよ。母子で履修科目について話し合うなど、とても面白い関係でした。いまも本校の園芸学科4年生で、座学はもちろん屋上農園で野菜や花を育てたり、クラブ活動は山楽会に入って山登りをしたり…と充実の人生を送っています」




「一方で、生涯学習と高齢者対策が混同されている面があるとも思っています。生涯学習は幼児や義務教育の子どもも含まれていいと思うので、土曜日に小中学生が学べる講座があってもいいはずですよね。誰もがずっと学び続けられる社会で、いい未来を築いていく、そんな時代が理想です」

100年時代に惑わされない、満足の一日を生きることの大切さ

「きのうは隠れた神戸の文化を巡るバスツアーでガイドをしました。そのあとは講演をして、講演内容にリンクするランチを食べて。好きで学んだことを、好きに話させてもらって、忙しく楽しく過ごしています。これからも、頼まれたことを全部引き受け続けられるように元気でいたい。わたし、頼まれたことは絶対断らないんです」

そう語る田辺学長の名刺には、表裏に渡って多種多様な肩書きがびっしり。生涯学習のピュアな楽しさを、学長ご自身が体現されている姿は、イキイキと学ぶ学生たちの様子にもつながっていると思いました。

健康面では細々としたことを気にするよりも、好きなものを食べて飲んで、自分の欲求に素直に従っているそう。
弱冷房車も、塩分控えめの食事もぜんぜん好きではないという台詞には思わず笑ってしまいましたが、変な我慢やストレスが生じるのなら、その健康情報は自分にとって本末転倒かもしれないというのは納得できます。

「今年、母親が98歳で他界しました。大往生だったと思います。ただわたしは長生きすることより、たとえ短くても人生の質を高めることに価値があると考えています」

そう語る背景には、40歳で早逝したご子息の存在があります。

「息子はサラリーマンとして成果を出し、30代で一橋大学のMBAを取得。マレーシアへの駐在が決まり、健康診断を受けたところで癌が見つかりました。それでも2年間、思う存分仕事に打ち込み、亡くなる3日前まで働いていました。本人は充実していたと思う」

だからこそ、こう続けます。

「100年という数字にとらわれるのではなく、いつ終わりが来ても“満足だ”と思えるように日々を過ごしていくことが大切です。それを阪神シニアカレッジがサポートできたら嬉しいですね」



学びとは単に知識を得ることではなく、人生を豊かに生きるための力なのだと、教えられた気がします。

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