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ライフスタイルコラム

循環する森づくりを目指す、「つなぐ森」の家具が生まれるまで

#建築・デザイン #インテリア #Well-being #SDGs
 のイメージ

2022年より野村不動産グループは、東京都西多摩郡奥多摩町にて保有する「つなぐ森」を軸に、循環する森づくり、生物多様性、未来を創る人づくり、共に創る未来を目指して推進する「森を、つなぐ」東京プロジェクトに取り組んできました。

本プロジェクトでは、「つなぐ森」と名づけた奥多摩の森で育つ針葉樹を活用し、独自の経済循環の創出を目指す取り組みの一環として、オリジナルの家具開発に挑戦。家具制作には不向きとされるスギ・ヒノキを活用したこの取り組みは、2025年度のグッドデザイン賞を受賞。持続可能な社会に向けた、新しい家具の在り方を提示するプロジェクトとしての評価を受けました。本記事では、共創パートナーとして家具のデザインに取り組んだ建築家・デザイナーの芦沢啓治さんと、野村不動産ホールディングスのサステナビリティ推進部の今野彩紀さんに、本家具が生まれるまでのストーリーについて伺いました。

芦沢啓治

芦沢啓治

建築家・デザイナー
2005年より「芦沢啓治建築設計事務所」主宰。「正直なデザイン/Honest Design」をモットーに、クラフトを重視しながら建築、インテリア、家具などトータルにデザイン。
国内外の建築やインテリアプロジェクト、家具メーカーとのデザインも手掛ける。
東日本大震災の復旧から生まれ、世界の現地工房で製造・販売するローカルパートナーを約10ヶ国に持つ家具ブランド「石巻工房」のファウンダー兼デザイナーでもある。
今野彩紀

今野彩紀

野村不動産ホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部 サステナビリティ二課
2021年入社。住宅事業本部にて一般顧客へのマンション販売営業を経験後、サステナビリティ推進部へ異動。「森を、つなぐ」東京プロジェクトにおいて「つなぐ森」の木材活用を担当し、製品開発や自社物件への導入推進に従事。

家具をきっかけにサステナビリティへの意識を高める


東京都奥多摩町の「つなぐ森」

日本の林業は、後継者不足による高齢化や、安価な輸入材の流通による利益の低下など、様々な課題に長年直面してきました。本プロジェクトにおいては、奥多摩町と包括連携協定を締結の上、森の管理を委託する東京都森林組合や地元製材加工所、建材メーカー、施工会社など、複数のパートナーと連携することで、川上から川下までの木材のサプライチェーンを新たに構築し、経済と資源が循環する仕組みづくりを目指しています。

「私たちが目指すサプライチェーンを確立するには、安定した需要を生み出せることを最優先に、『つなぐ森』の木の活用方法を考える必要がありました」と語る今野さん。実現方法を探る中で生まれたのが、イスやテーブルといったオリジナルの家具をつくり、グループ内での活用を推進するというアイデアでした。

「建築基準法などを満たす必要がある構造材などとは違って、家具にはそうした制約はありませんし、野村不動産グループが持つオフィスや店舗、住宅、ホテルなど、幅広い商品で活用することができます。それに、家具は身近な存在として日常的に触れるものなので、自分たちが使うテーブルやイスをきっかけに、この取り組みについての理解を深め、サステナビリティに対する社員の意識を高めるきっかけになるのではと考えたんです」

「つなぐ森」の針葉樹を使った家具開発への挑戦

野村不動産では、これまでに新築マンション向けに展開している「Luxmore」シリーズといった住宅設備シリーズの開発実績はありましたが、イスやテーブルなどの家具開発ははじめての挑戦でした。共創に取り組むパートナーを探す中で今野さんは、コクヨ株式会社とヒノキを使った家具開発に取り組んでいる、建築家・デザイナーの芦沢啓治さんの活動に目を留めます。本プロジェクトでおもに使用するスギは、ヒノキと同様、針葉樹の一種であり、一般的には家具づくりには向かない素材として知られています。

「針葉樹を使った家具づくりに取り組んできた芦沢さんであれば、私たちと同じ方向を目指していただけるのではないか。そんな直感から、勝手ながらオファーさせていただいた次第です」。そんな今野さんからの依頼を受け、芦沢さんはどのような印象を抱いたのでしょうか。

「野村不動産が社会的責任を果たすプロジェクトに取り組まれていると知り、とても好感を持ちました。同時に、お話を聞いた時に真っ先に感じたのは、『本当に家具をつくることが正解なのだろうか?』ということでした。家具はそこまでの物量を流通させることはできないですし、開発コストに見合う付加価値を生み出すことができるのだろうかと。それに、家具ってそんなに簡単にできるものではないんですね。これは大変な仕事になりそうだな……と、はじめはお断りさせていただいたんですが、その後何度も押し問答が続いたのを覚えています(笑)」



そう笑って振り返る芦沢さんに、当時の今野さんは粘り強くオファーを続けていたといいます。その後、針葉樹を活用した家具制作の実績があるカリモク家具株式会社をパートナーに迎え、共同で制作に取り組んでいきたいという芦沢さんからの提案を受け、晴れて「つなぐ森」の木を用いた家具開発がスタートしました。

「スギを使った家具づくりは決して簡単なことではないですし、その道の専門であるカリモクさんと一緒にやりませんか?と、提案させていただいたんです。さっそく今回の件について相談してみたところ、ぜひやりましょうと二つ返事で引き受けてくれました」

これまで数々の建築や家具を手がけてきた芦沢さんだからこそ、前例の少ないスギを使った家具制作に挑戦する覚悟が必要だったそうですが、同時にこのプロジェクトが実現することへの期待もあったといいます。

「スギはとても弱い素材のため、一部の家具メーカーでは圧縮させて強度を出しているケースもありますが、そもそも家具制作での使用事例が少ないんです。なので、関わるみんなにとってチャレンジングな仕事になるだろうなと感じていたんですが、同時にやってみる価値はたしかにあるなと思ったんですね。今回のプロジェクトが成功すれば、日本の家具メーカーがスギを使うことにもっと前向きになれるのではないかと感じていました」

「正直なデザイン」から生まれたアイコニックなフォルム



取材先となった芦沢啓治建築設計事務所の1階には、芦沢さんが設計を手がけた「dotcom coffee 浅草橋」が入居しており、芦沢さんがファウンダーを務める家具ブランド「石巻工房」の家具をはじめ、美しい木材が多用された空間が広がっています。芦沢さんが手がける「ブルーボトルコーヒー みなとみらいカフェ」や「ブルーボトルコーヒー 名古屋栄カフェ」などにおいても、木材が魅力的に使用された心地いい空間が、訪れる人をあたたかく迎え入れます。

芦沢さんの仕事は、自身の姿勢を「正直なデザイン」という言葉で表現されていることでも知られています。家具づくりには不向きとされるスギ材を使った家具開発に挑戦する本プロジェクトにおいても、その姿勢が大きな役割を果たしたようです。

「僕が普段からよく考えているのは、木を正しく使ってあげたいということなんです。生魚を正しく扱える寿司職人が美味しい寿司を握れるように、僕らは木という材料のことを十分に理解した上で、それぞれに適したデザインを与えなくてはならない。不用意に太くしたり細くしたりすることなく、使いやすいものをつくるためには、木を素直に使う必要があるんです。

このプロジェクトで扱うスギはとても弱い素材なので、一般的な家具よりも太さを出す必要がありました。負担をかけすぎないためには、なるべく背を低くしたり、目立ちにくいところで厚みを出したり。その分、どうしてもふっくらとした印象の家具になってしまうんですが、なるべくこの太さをよしとするバランスに仕上げることを意識しています」



そんな芦沢さんの話を聞いた上であらためて完成した家具を見ると、いわゆる“シュッとした”印象というより、どこかぽってりとしたフォルムに特徴があるのがわかります。「そもそも針葉樹でつくられた家具はほとんど流通していないので、この見た目にあまり見慣れない人もいるのではないかと思いますね」と芦沢さん。同時に、仕上がりに対して確かな手ごたえも感じていたようです。

「サステナビリティをテーマにしたプロジェクトでは、企画が終わった途端使われなくなってしまうこともままありますが、我々としては、意義があるからという理由ではなく、良いデザインだから選んでもらう家具をつくることで、長く使ってもらえるんじゃないかと思ったんですね。ぽってりとしたこのフォルムに、どこかチャーミングな印象やアイコニックな魅力を感じてもらえるとうれしいですね」

トレーサビリティの実現による“ご当地家具”の可能性

スギ材の特性に向き合う「正直なデザイン」の実践によって生まれたこのユニークな家具は、野村不動産の「BLUE FRONT SHIBAURA S棟」のオフィスをはじめ、シニアレジデンス「オウカス」や物流拠点「Landport」など、グループ内の様々な施設への導入が進んでいます。「家具が使われるまでにはそれなりの時間がかかるものなので、こんなにも早くたくさんの方に使ってもらえているのはとても嬉しいですね」と、芦沢さんは安堵の表情を浮かべます。


「オウカス 浦和針ヶ谷」に導入された「つなぐ森」の家具

グループ内で「つなぐ森」の木材の利活用を進めることは、サプライチェーンにおける安定的な需要を生み出すだけではなく、冒頭で今野さんが触れたように、グループに所属する社員たちの意識変革やオフィスに訪れる社外の方々へのアピールにもつながっています。本プロジェクトでは、木の収穫から製材までのプロセスをマネジメントする、独自のトレーサビリティシステムを開発しており、家具に貼られたQRコードを読み取れば、使用された木材の情報が一目でわかる仕組みが構築されています。日々使用する家具を通じて、奥多摩の森に思いを馳せるきっかけをつくるこの取り組みを実現するには、とりわけ大きな苦労があったと今野さんは振り返ります。

「欧州では森林破壊のリスクが高い製品の輸出を制限する、EUDR(EU Deforestation Regulation:欧州森林破壊防止規則)という法律があり、本プロジェクトにおいても、そういった国際水準を満たすシステムの構築を目指していたんですが、1本1本の木にタグをつけて管理するなど、現場の方々の負担になってしまう運用は現実的ではないので、私たち独自の要件を定義していく必要がありました。正直なところ、もっとも苦労したプロセスはそこでしたね。実際に運用が開始してからは、パートナーのみなさんには心よくご協力いただき、無事に定着が進んでいます」


「つなぐ森」の家具にプリントされたQRコード
 


トレーサビリティの閲覧画面

トレーサビリティの仕組みが浸透すれば、自分たちが腰をかけているイスのルーツがどの森にあるのかを、誰もが簡単に知ることができるようになります。そういった「もの」との関わり方は、大量生産と大量消費が浸透した社会において、いつしか忘れ去られてしまった価値観でもありました。トレーサビリティによる意識の変化に、芦沢さんも期待を寄せます。

「そこまでやるんだなと、はじめて聞いた時には驚きがありましたが、とても重要な取り組みだと思いますね。いまも違法伐採がおこなわれている地域はありますし、家具メーカーの中でも、トレーサビリティが実施されていない木材は買わない動きがはじまっています。このプロジェクトのように、どの森の木を使っているのかがより把握できるようになれば、“ご当地家具”をつくる動きが増えていくかもしれないですね。

海が近い街に行けば美味しい魚料理が食べられるように、食においてはあたりまえのことが、いつしか木材の世界ではできなくなってしまっている。グローバル化によって安い木材ばかり輸入するようになり、使われない国産の木材は、チップにされてどんどん燃やされてしまっています。そんなアンバランスな状況があると思うんです」

 

家具のストーリーに思いを馳せて暮らすこと

その土地の食の名産品を楽しむように、暮らす街に根付いた家具を使う生活が、今後ひとつのライフスタイルとして定着していく未来があるのかもしれません。身の回りにあるもののルーツを知りながら暮らすことは、消費者である私たちの意識次第で実現できるはずです。

「未来のことを考えながら買い物をする人が増えるといいですね。スーパーマーケットで牛乳を買う時に、かならず手前にある賞味期限の短い商品から手を伸ばすような習慣を、消費者がちゃんと身につけないといけない。それに、もっと家具に興味を持つ人が増えていくとうれしいですね。好きな音楽について語るように、なぜ私はこの家具を選んだのかをちゃんと説明できるのは、素敵なことだと思うんです。そのために、僕らはちゃんと理由となる言葉を用意しておく必要がある。当然ながら、家具はボタンひとつで完成するわけではなく、様々なプロセスを経て丁寧につくられているんだということを、もっと伝えていかなくてはならないと思います」



林業の課題に向き合い、循環する森づくりを通じた家具制作に取り組んだ本プロジェクト。野村不動産グループ内での活用を進めているオリジナル家具は、野村不動産グループカスタマークラブ会員様限定に販売も開始しており、「つなぐ森」から生まれた家具がより多くの方のもとに届いていくことが期待されます。

取材の最後に、お二人のこれから仕事についてお話しいただきました。スギを使った家具づくりに手ごたえを感じたという芦沢さんは、今後も家具づくりに臨む上での想いを語ります。

「家具を買う時、ほとんどの人が実際に触ってみてから購入を決めるらしいんですね。スギは空気を多く含んでいるのでとても軽い家具が仕上がりますし、スギの柔らかさやあたたかみに触れることで、スギという木に対しての親しみや愛着が持てるようになると思うんです。これまでの家具づくりにおいては、ウォールナット、チーク、チェリーが木材の王様とされていましたが、『スギの家具っていいよね』とたくさんの人が思ってもらえるような、そんな家具をこれからもデザインしていきたいですね」

サステナビリティ推進部のメンバーとして本プロジェクトを推進してきた今野さんは、ご自身の意識の変化を振り返りながら、「つなぐ森」のストーリーを伝えていくことへの意気込みを語りました。



「こうして振り返ると、とても重要な役割を任せてもらえたプロジェクトだったんだなと、あらためて感慨深い気持ちになりました。家具開発を通して芦沢さんとお話する中で、自分自身の購買意識を見直すようになりましたし、外観のデザインだけでものを選ぶのではなく、そこに込められたストーリーにも目を向けていきたいと感じるようになりました。つくり手の思いやプロダクトが生まれるまでの過程に、少しでも思いを馳せる人が増えていけば、より良い社会になるんじゃないかなと感じています。

この視点は、実際にこのプロジェクトに携わらないとなかなか得られないものだったと思うので、サステナビリティ推進部のメンバーとしては、この取り組みをより多くの方に伝えていきたいと思っています。社会課題の解決のためだけではなく、巡り巡って会社の成長にもつながっていく、そんなストーリーを描いていきたいですね」

この記事を読むみなさんは、いまどんなイスに腰を掛けているでしょうか。ふと周りを見渡した時、目に入る木製の家具や小物がどの森から届けられているのか、そんな想像力を持つことが、社会に小さな変化をもたらすきっかけになるかもしれません。

「森を、つなぐ」東京プロジェクト


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