マンション防災の基本 知っておきたい地震・停電への備えと対策

地震に強いとされるマンションでも、集合住宅ならではの注意点を知っておくことが大切です。地震の際には、共用部の停電や断水、エレベーターの停止といった事態が発生することも。また、階数によって揺れの大きさに差が出ることもあります。今回は、居住者一人ひとりが備えておきたい、地震や停電などへのマンションの防災・災害対策の基本をご紹介します。

Yuu(尾間紫)
一級建築士、 インテリアコーディネーターとして数多くの現場経験や相談実績をもち、住宅リフォームコンサルタントとして快適な住まいづくりのノウハウを発信している。
地震に強いマンション、安心のポイントは?

マンションは基本的には地震に強い構造を持っています。
安心のポイントは、1981(昭和56)年6月1日に施行した「新耐震基準」に適合していること。1981年6月以降に確認申請された建物、もしくは現行の基準に合わせて耐震改修を行ったマンションなら、大地震が起きても倒壊の可能性が低く、いざという時でも自宅で過ごせる「在宅避難」が可能なケースが多くあります。
ちなみに、「耐震」とは、言葉の通り地震に耐える力のこと。これを基本として、建物の揺れを抑える「制振」や「免震」など、より高度な地震対策がされた構造のマンションなら、安心度は大幅にアップします。
例えば、「デュアルレイヤーコア免震システム」と呼ばれる構造は、基壇部と高層部の主要構造を凹型の免震ピットで切り分けて地震の激しい揺れを抑える仕組みで、建物の外周部に免震のためのクリアランスを設ける必要がなく、敷地の有効活用も可能です。
ただし、避難指示や避難勧告などが発令された場合は、建物の構造に関わらず、速やかに避難することが原則に。 避難情報は「地域」単位で出されるため、自己判断に頼らず、指示に従うことが大切です。
また、マンションでは、共用部の被災やライフラインの停止など、共同住宅ならではの注意点があります。それらを踏まえ、日ごろからそれぞれの家庭で備えておくことが安心につながります。
停電時の仕組みを確認、各家庭でも備えを

地震時には、電気や水道などのライフラインが一時的に途絶えることがあります。
マンションで停電が起きると、エレベーターが停止したり、ポンプが動かなくなって断水が発生したりするケースも。そうなれば、水の運搬にも手間が掛かってしまいます。
大規模物件や新しいマンション、高価格帯のマンションでは、非常用電源や発電機、蓄電池などを備えていることが多く、安心感があります。ただし、使用できる範囲や時間には限りがあることも。
まずは、住んでいるマンションの停電時の仕組みを確認し、いざという時のためにバッテリーや飲料水の準備をしておくと安心です。

高層マンションでは、階数によって揺れの大きさが異なることがあります。
マンションならではの揺れ方の特性も知っておきましょう。
高層階では地震の揺れが長く、ゆっくりと大きく感じられます。これは「長周期地震動」の影響によるもので、高層階ほど揺れが増幅する現象です。家具が倒れやすくなりますので、しっかりとした転倒防止対策をしておきましょう。
時には、中層階の揺れが大きくなることもあります。これは地震の揺れとマンションの揺れが重なる「共振現象」によるもので、東日本大震災では首都圏の高層マンションで中層階に集中してキッチンのタイルにヒビが入った事例もありました。
マンションの構造そのものに被害がなくても、地震や停電によって生活に支障をきたすことがあります。各家庭でもしっかりと備えておくことが、安心して暮らすための大切なポイントです。
マンション防災で役立つ準備と、確認ポイント
避難はしごの位置の確認を。点検は必ず受けましょう。
マンションでの安心な暮らしのために、いざという時に役立つ日ごろの準備と確認ポイントをご紹介します。
• 当座の生活ができる現金
• モバイルバッテリーや予備の電池
• 常備薬、マスク、衛生用品 など
マンションでの停電・断水時の注意点

災害時にトイレを勝手に流すと、詰まりや逆流などの被害が拡大することも。管理会社や掲示板の指示に従いましょう。
●トイレは勝手に流さない
水が流れるように見えても、排水ポンプが止まっていると、下階で汚水が溢れたり、排水が逆流したりする危険があります。断水時や停電時は、管理会社や掲示板の指示に従い、トイレは勝手に流さないようにしましょう。
●簡易トイレとゴミ袋を準備する
簡易トイレは忘れずに用意をしておきましょう。使用後の臭い漏れを防ぐため、防臭性能が高いゴミ袋もあわせて準備しておくことをおすすめします。一般的なビニール袋では臭いが漏れやすいため注意が必要です。市販の災害用トイレセットには、防臭袋が付属しているものもあります。
●エレベーターは使わない
地震直後や停電時は、安全装置が作動しエレベーターが止まる可能性があります。閉じ込められた場合は非常用インターホンで通報を。管理会社や掲示板の指示に従って、安全に使用できる許可が出るまでは階段を使いましょう。
●キャンドル火災に注意を
停電時にキャンドルを使う際は、火災に注意をしましょう。非常時は心が焦ることも多いもの。できれば火は使わず、LEDキャンドルやLEDランタンなどを使うようにすると安心です。
防災訓練に積極的に参加を、備蓄倉庫の確認も
防災倉庫の参考写真(野村不動産分譲済物件)
マンションによっては、共用部に防災倉庫が設置されていて、簡易トイレや毛布、飲料水、非常食、救急セット、さらには救助工具や投光器、発電機などが備えられていることもあります。
備蓄の有無や内容は、マンションごとに異なります。野村不動産では、防災をより身近なものとして捉えながら備える「見せる防災・しまう防災」を推進しています。
見せる防災とは、入居者が見えやすい位置に防災製品を展示するように収納することで、防災意識を高めつつ、新たな気付きを促してくれます。しまう防災は、ラウンジやエントランスホールの家具内など、すぐ使えるところにしまうことで、災害時の初期活動をスムーズにしてくれます。
管理組合が主催する防災訓練は、こうした共用設備の位置や使い方を確認できる貴重な機会です。備蓄があるから大丈夫で終わらせずに、中身をしっかりと把握し、使い方を確認しましょう。
災害時には、お互いに助け合う「共助」の力が重要になります。マンションの防災訓練は、共用設備の確認だけでなく、ご近所とのつながりを築くきっかけにもなります。実際に、「参加したおかげで顔見知りができた」という声も。日ごろのつながりが、いざという時の心強い支えになりますので、防災訓練には積極的に参加しましょう。
考えておきたい災害時の行動、連絡先の共有を

公衆電話は、災害時に優先的に取り扱われます。また、NTT東日本・NTT西日本の通信ビルから電話回線を通じて電力の供給を受けているため、停電時でも電話をかけることができます(総務省「公衆電話の特徴と使用方法」より)
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